静と動,美と残酷が共存する森薫氏の世界

森薫乙嫁語り 5』(エンターブレイン角川グループパブリッシング,2013年 1月)読了.前巻で登場したライラとレイリの結婚のはなしが続きます.ストーリーらしきものはいちおうあるんですが,それよりも,章題のとおり「祝宴」の描写こそがこのはなし(「第二十三話」から「第二十五話」まで)の眼目であり主内容であるのではないでしょうか.花嫁・花婿たちの衣装,豪華な絨毯,たっぷりの料理,音楽や舞踊など,森氏の緻密で入念な<絵>に圧倒されます.そんななかに,羊の解体作業も描かれています.こういうものもさしはさんでいるのが,森氏のすごいところですね.「第二十六話」からはまたエイホン家のカルルクとアミルのはなしにもどりますが,「第二十六話 日暮歌」はモノローグとイラストの合体とでもいったらいいでしょうか,これまでのコマワリによる作品とはちょっとトーンがことなります.そのあと,「番外編」をはさんだ「第二十七話 手負いの鷹」には,残酷な選択が出てきます.手当をしたもののうまく飛ぶことができない鷹を「このまま飼ってみる?」というカルルクにたいしていうアミルのことばが感動的です.

それはダメです/鳥は空を飛んで生きるものです/このまま空も飛べず人の手からエサをもらって/それでは命あっても生きているとは言えません/それはダメです/そうするくらいなら/このまま野に放してほかの動物に食べられてしまったほうがましです
(pp. 182-183)