聖人がいっぱい

秦 剛平『美術で読み解く聖人伝説』(ちくま学芸文庫筑摩書房,二〇一三年二月)を読みました.キリスト教にたいする敵対的・攻撃的な姿勢や卑俗な口調など,感心できかねるところもあるのですが,それでも,これはたいそう有益で便利な本です.聖母マリアからはじめてイエス・キリスト十二使徒たちやその後の聖人・聖女たちのことを解説しています.かれらが『黄金伝説』の第何話で語られているのか,ヤコブス・デ・ヴォラギネはどのような史料を利用しているのか,どういった国や地域や団体がかれらを守護聖人としてあがめたてまつっているのか,西洋の画家たちは聖人たちをどのように描いたのか,どういった作品がありどこに収蔵されているのか,といったことを要領よくまとめています.描かれた作品は膨大な量にのぼり,この本に紹介されているのもそのうちの一部にすぎないでしょう.小さなモノクロ図版では細部まではわかりかねますけど,現在ではインターネットでかんたんに画像を検索できますので,そういった意味でも有益なガイドといえるかと,おもいます.ところで,たまたま気づいた些細なことですが,クリストフォロスについての説明のうち「守護聖人」の項にクエスチョンマークが付されており,本文中にも言及はありません.クリストフォロスって,トラックの運ちゃんたちの守護聖人じゃなかったっけ,とおもい手元の本にあたったところ,鹿島 茂(編)『バースデイ・セイント』(飛鳥新社,2000年12月)には「ドライバーや自動車関係者、旅行者、巡礼者、子供の守護聖人となった」とあり(p. 233),『岩波 西洋美術用語辞典』(2005年11月)には「旅行者、運転手の守護聖人」との記載(p. 103)がありました.さらに,オットー・ヴィマー(藤代幸一 訳)『図説 聖人事典』(八坂書房,2011年12月)の「訳者補註」は「伝説のさまざまな局面から,医者,庭師,果物商,旅人,巡礼,渡し守,船乗り,荷物運び人などの守護聖人.また現代ではドライバーを交通事故から守る聖人として人気が高い」と記しています(p. 105).