濫造だけれど粗製でない

日本橋高島屋の8階ホールで ≪生誕130年 ユトリロ展≫ を見ました.初期から最晩年まで,80点ちかい作品(日本初公開のものもあり)を展示しています.ユトリロといえば,もっぱら白っぽい建物の風景画を描いたひと,というイメージがありますけど,そればかりではなく,けっこう濃い色を使ったり,樹木をおおく描きこんだり,輪郭線を強調してみせたりと,さまざまな画風があることに,今回あらためて気づきました.もっとも,どれも似たようなものばかりだ,とか絵はがきのようだといった批判もあり,たしかにそうした面は否定できないものの,やはり人気を博すだけのことはあるようです.ユトリロの風景は,見るものに安らぎ(と,とりあえずいっておきます)をあたえるんですね.自宅に飾っておきたくおもうひとが多かったのではないでしょうか.なお,絵によってはパースペクティブが狂っており,建物が歪んでいるようなのもありますけど,わたくしはむしろそうした作のほうが好きです.図録の表紙を飾っている「 ≪小さな聖体拝受者≫、トルシー=アン=ヴァロワの教会(エヌ県)」(cat. no. 11)なんかがそのいい例でしょう.「ネイロンの教会(アン県)」(cat. no. 13)も教会正面がひとの顔のように見え,ユーモラスな感覚にあふれている,と,おもいます.