吾妻ひでお氏のふしぎな世界

吾妻ひでお中川いさみ・監修)『あるいは吾妻ひでおでいっぱいの吾妻ひでお』(河出書房新社,2013年 9月)読了.このシリーズも第5弾となりました.今回は「作者が出ている作品」をテーマとしているのだそうです.巻末の解説で中川いさみ氏は「自分を主人公にした漫画を描く作家はいっぱいいるんですが、だいたいそれはエッセイ漫画だったり、ちょっとした脇役に使ったりするのが普通で、吾妻ひでおキャラくらい存在感のある作者キャラは世界中探しても他にいないですね」(p. 216)と書かれています.たしかにそのとおりで,手塚治虫石森章太郎をはじめとして作者自身を登場させることはひろくおこなわれてきました(そして現在でもおこなわれています)けど,たいていはメタマンガとして欄外に描きこむか,あるいは「あとがき」に登場させるか,または中川氏の解説にあるようにエッセイ漫画の登場人物とするか,のいずれかであるようにおもわれます.その姿も,ふつうの人間にちかいものと,かなりデフォルメされたものの2種があるようです.青池保子氏や一条ゆかり氏,和田慎二氏などは前者で,竹本 泉氏や秋乃茉莉氏の自画像キャラはデフォルメがつよいといえるでしょう.(秋乃氏は自画像をカッパにしています).吾妻氏がすごいのは,その両者を自在にあつかっていることです.『失踪日記』は「自分を主人公にした[・・・]エッセイ漫画」でふつうの人間にちかい描き方がされていますけど,本書に掲載されている諸作品にはかなりデフォルメされた自画像が出てきます.そしてそのキャラが,吾妻ひでおという作者自身であると同時に,吾妻氏の作品にあらわれる奇天烈な人物(ブキミ氏や三蔵さんやナハハのおっさんなど)とおなじくらいに奇怪なキャラクターでもある,というのが,なんともふしぎです.(自画像キャラの)こういう描き方をしたひとは,おそらくほかにいないのではないでしょうか.吾妻氏の世界を称賛するゆえんです.