春画関連の本3点

春画関連の本を3冊読みました.はじめは白倉敬彦春画と人びと 描いた人・観た人・広めた人』(青土社,2014年 6月)です.タイトル(およびサブ・タイトル)からうかがわれるように,作品としての春画よりも,春画とそれにかかわったひとびととの関係を考察の対象としています.冒頭の3つの章では肉筆画からはじまって錦絵にいたる春画の歴史を述べ,「第四章」では貸本屋の実態をさぐり,さらに,現代につたわる作品がかならずしも出版当時のオリジナルそのままではないことや,春画の海外流出にもおよんでいます.最終の「第八章」ではエロティシズムの問題をとりあげ,歌麿の「歌満くら」を春画の最高傑作として称揚し,「心理描写」という,ほかにはない要素が見られることなどを説いておられます.この章はきわめて説得力に富む,雄編といっていいでしょう.
ついで,早川聞多春画』(すばる舎,2014年 5月)を読みました.こちらは,浮世絵春画はポルノとはちがう,という主張が全編をつらぬいています.「描かれる人物がポルノグラフイーでは女性が中心であるのに対して、春画ではほとんどが男女が共に描かれてゐます。[中略]ポルノグラフイーでは性的に魅力的な女性または男性が描かれますが、春画では幼い子供や性に目覚めたばかりの少年少女から、世帯染みた中年男女や老齢の男女まで、実にさまざまな身分の男女が描かれてゐます。[中略]画中に書き込まれた言葉を読みながら見ますと、浮世絵春画は実にさまざまな「笑ひ」に満ちてゐます」(p. 4)とあって,「第一章 人生のなかの性」では幼少年期から老年期までの5期に分け,「第二章 四季十二ケ月のなかの性」では春夏秋冬,一月から十二月までの季節の変化に応じて,さまざまな春画を紹介・解説しています.画中のカキコミや人物のせりふを解説文中に引用しているのが,いいですね.
最後は,『再発見! 世界が愛した春画たち』(綜合図書平成26年6月)です.背表紙や標題紙に「春画は日本だけでは語れない! 海を渡った春画には、さまざまなドラマがあった」というサブタイトル(キャッチコピー ?)があるとおり,海外における春画に着目しています.はじめに大英博物館ボストン美術館をはじめとする外国の美術館・博物館とその収蔵作品を紹介し,「第2章」では「浮世絵、春画に魅せられた人々」をあつかい,「第3章」は浮世絵・春画から影響を受けた(かもしれない)西洋の画家たちをとりあげています.「ピカソキュビスムは、日本の春画に影響されているのではないか、という説が出ている」(p. 83)などというのは付会のような気もしますけど,おもしろい見解にはちがいありません.以上3冊,異なるアプローチによるちがいをたのしんで,読むことができました.