むかしの景色

GAS MUSEUM がす資料館で ≪〜都市風景の記録者〜織田一磨と東京風景」展≫ を見ました.無知をさらけだすようで恥ずかしいのですが,織田一磨というひとは,まったく知りませんでした.1882年(明治15年)に東京に生まれ,石版画家であった兄について絵と石版を学び,美術の道をこころざしたそうです.今回展示されている「東京風景」は大正5年から翌年にかけて制作した20枚の石版画で,荷風の序文を付して刊行されたものの,ほとんど売れなかったとか.ほかに,大阪をはじめ各地の風景を描いた石版画作品や,浮世絵研究をまとめた著書をおおやけにしながらも,1956年(昭和31年)に逝去されたとのことです.さて「東京風景」ですが,江戸の浮世絵や明治の絵はがきなどに取りあげられている著名な場所もあるものの,それ以外,作者が「面白いと感じた風景」を勝手気ままに選んでいます(あまり売れなかったのは,これが原因かもしれません).そして描き方も,浮世絵にちかいものもあれば,西洋の銅版画をおもわせる緻密な描線によるものなど,いろいろです.わるいいいかたをするなら,スタイルが統一されていないんですね.モノクロが多いなかに,一部に彩色をほどこした作もあります.が,そうしたさまざまな画法が混在しているところに,この「東京風景」の特色があるのかもしれません.なかで,わたくしの印象にのこったのは「18 東京風景 上野之桜」です.桜の花が,花というよりも,不気味に増殖した生物のようにおもわれて,異様な雰囲気を醸しだしています.なお,この展示では一磨が描いた場面の「現在の風景を写した写真を比較展示して紹介」しています.これはたいそう親切な処置です.それにしても,100年ほどまえの光景が,現在ではいかに変わってしまっているか,愕然とさせられます.