こういう切り口もあるのか

安村敏信面白江戸アートギャラリー 江戸の十二支どうぶつえん』(東京美術,二〇一四年十月)を読みました.「はじめに」につぎの記述があります.

近年、動物をテーマにした絵画や工芸の企画展が各地の美術館で開催され、好評を得ている。[中略]とはいえ、古来我が国で描かれてきた動物画は非常に多彩で数も多い。[中略]本書は、そうした膨大な動物画の中から「十二支」に登場する動物たちを描いた傑作を選び、紹介した。(p. 2)

「十二支」に着目したのが,ユニークですね.さらに,「十二支から漏れてしまう」「"捨てがたい" 動物たちの絵も、各十二支のあとに項を設けてすくい上げ」ています.「鼠」の項に「猫」,「馬」の項に「鹿」,「猿」の項で「蟹」など,「すくい上げ」る動物たちの設定にも軽妙な(ダジャレにちかい)センスがあって,笑ってしまいます.数多くの絵画を紹介していますが,なによりも,描き方が多彩であることに,おどろかされます.自然のなかの動物をリアルに描いたものもあれば,日常生活のヒトコマとして人物と取りあわせたもの,神仏の象徴(というか寓意)としてあらわしたもの,擬人化したものなど,いろいろです.描いたひとびとも,狩野派の絵師もいれば浮世絵師もあり,若冲や応挙や暁斎など,さまざまな分野の絵師たちが「動物」をテーマとして挑んでいたことに,あらためて気づきました.「自然」に対する日本人の感性の多様性を教えてくれる,という意味で,日本美術に関心を持つひとたちへの,オススメの本といえます.