多様で多彩で,(ある意味)前衛的

太田記念美術館で ≪没後150年記念 歌川国貞≫ を見ました.国貞といえば,七代目團十郎など文化・文政期の役者絵で有名な絵師,というのが一般的な評価かとおもわれますが(わたくしもそんなふうにおもっていました),そればかりではない,さまざまな分野の作品を数多く創作し,技法的にも注目すべき面を持つすぐれたひとだということを,今回の展示で実感しました.特定のテーマを決めてシリーズ化した,いわば伝統的な作品なんかでも,その細部にちょっとした工夫がこらされていて,見るものを飽きさせません.が,国貞の絵でもっとも顕著なのは,人物の表情でしょう.舞台で演じられている芝居の登場人物が,いったいどういう境遇におかれていてどんな感情をいだいているのかが,手にとるように伝わってきます.芝居ではない,ふつうの人物の日常生活におけるしぐさなどにも,豊かな表情があふれています.この豊かな表情こそが,国貞の最大の特色であり,魅力であるといえるでしょう.ほかに,空間の表現に,かなり異色なものがある,と(シロートの直観的な印象ですが),おもいました.「娼家内証花見図」(cat. no. 57)や「江戸新吉原 八朔 白無垢の図」(cat. no. 106)には,(ことによると)西洋絵画の遠近法を研究した成果が取り入れられているのではないでしょうか.