ノンセンスの極み

吾妻ひでお『チョッキン[完全版] 』(全3巻,復刊ドットコム,2014年10〜12月)読了.「完全版」とうたっているのは,単行本未収録作品も掲載しているからです.この作品の内容・特色・マンガ史上での意味や影響については「第3巻」に付された佐野邦彦氏の解説が十二分に語っていますので,興味のある方はぜひ読んでください.ところで,些細でどうでもいいようなことながら,気になったことがあるので書いておきます.「ホンモノの感触!の巻」のなかに,チョッキンのパパが葡萄の房を手にしているシーンがあります(第3巻,p. 67).その足元に湯呑茶碗があるのですが,そこになにやら字が描かれているらしい.ルーペで見たところ,なんと「まだ沈ずまずや定遠は」とありました.「勇敢なる水兵」の一節をここに置くのは,いったいなんの意味があるのでしょうか.当時の読者でこの歌詞がわかったひとはごくごく少数で,ほとんどゼロにちかかったのではないでしょうか.あるいは,じっさいにこんな歌を書きつけた茶碗があったのだろうか,などとヘンな想像をしてしまいました.たぶん,意味のないことを書きこむことに,吾妻氏一流のメンタリティー(あるいは遊びごころ)があったのだろうと,かんがえておくことにしました.「ノンセンス」と題した所以です.