江戸の洒落た表現

石神井公園ふるさと文化館で岩崎均史館長の講演「江戸の絵暦 〜月の大小と暦〜」を聴きました.暦の成りたちや歴史についての説明のあと,「大小」というものが登場したことを述べて,その特色やそこから読みとれることなどを語られました.演題には「絵暦」ということばが用いられていますけど,江戸時代には「大小」または「大小の摺物」と呼ばれており,「絵暦」とか「大小暦」という用語はほとんどおこなわれておらず,近・現代になってつくられたことばなのだそうです.そもそも「大小」は暦ですらなく,たんに「ことしは何月と何月が大の月で,何月が小の月ですよ」ということを示すものにすぎません.が,それを文字であらわすだけでなく,絵を描いて,そのなかに隠し絵ならぬ隠し文字とでもいうようなものに仕立て,そうした趣向をこらしたものをひとに配ったり,たがいに交換したり,というあそび(というか習慣)が世におこなわれるようになり,これが錦絵の誕生のきっかけになった,とは日本美術史の本なんかにも書かれているとおりです.「趣向」が勝ちすぎるという面もあったようですが,実用性よりも趣味性をおもんずる心情がつよかったのでしょう.他の日本美術品に見られないような要素(静物画とか人物の正面観とか)も「大小」の特色だそうです.「浮世絵版画に比べ、情報量は極端に少ない(研究・論文・研究書は僅か)」とのことですけど,岩崎氏は20年前より「大小」の研究につとめ,8,500点ほどをデータベースとして保存しておられるとか.講演の後半ではそのうちのいくつかの映像を写しだされましたが,じつにいろいろなものがあります.当時のひとびとは中国の故事なんかにも精通していたのでしょうか,江戸のひとの教養はすごいですね.なお,いわば余談に類することですが,ことしの干支である「ひつじ」は,絵には「ひつじ」と書かれているものの,じっさいはやぎであることがおおい,とか,ご当地練馬にかんして「大根」を描いたものを紹介されたりもしました.とにかく,おもしろく拝聴・拝見してきました.