美術鑑賞とは(?)

藤田令伊『アート鑑賞、超入門! 7つの視点』(集英社新書集英社,二〇一五年一月)を読みました.「はじめに」につぎの記述があります.

ある時、私は「アート」と「アートを見る」ことは違うと気がつき、「アートを見る」ことについて学びたいと思いました。ところが、図書館や書店へ行っても、「アート」の本はいっぱいあっても「アートを見る」ための本はほとんどありません。印象派の意味を教えてくれるものはたくさんあるのに、「アートを見る」ことの意味や方法を教えてくれるものはなかなか見つからないのです。たとえ「アートの見方」と題されていても、中身は美術史的知識や作品背景を解説した「アート」の本であることが大半です。(p. 4)

こうした問題意識から,著者は「アートを見る」ことにかんして,さまざまな角度からの考察と提案をおこなっています.まずは「よく見る」ということ.美術館でひとびとがひとつの作品をどれほどの時間をかけて見ているかというと,「ほとんどの人は平均一分もかけていませんでした。わずか数十秒ほど作品を眺めたら、もう次の作品へと向かっています。[中略]私たちはお金を払って美術館へ行っているにもかかわらず、大してよく見ていないのが実際なのです(pp. 18-19)」と指摘されています.もっとも,「よく見ていない」のは人間の脳のメカニズムにもよるらしいので,見ることに専念するのはけっこうむずかしいのかもしれません.が,せっかく美術館にいくのなら,たのしく(そしてできれば有益に)鑑賞したいものです.著者はそのためのヒントをいろいろと示しており,第一に,「ディスクリプション」(作品を言葉で説明すること)を薦めておられます.ほかにも,じぶんの感性で見ること,(作品に対する)疑問を呈してみること,好きな作品に対してあえて批判をおこない,逆にきらいな作品のうちに美点や長所を見いだそうとつとめることなど,へ〜とおもわされるような提案や方法がいっぱい書かれています.本書の真価はわたくしの生半可な紹介ではとうてい伝えられませんので,美術に興味のあるかたはぜひ,手にとって実際に読んでみてください.