室内装飾であり美術であり歴史資料でもある

杉並区立中央図書館で「講座 「知の散歩道」 タピスリーの美を求めて フランス中世を中心に」を聴きました.講師は篠田勝英白百合女子大学教授です.タピスリー(英語ではタペストリー)とは,「「壁掛け」の意で「壁を隠し、部屋を飾る布」」だそうで,石の壁のつめたさをおおう実用的な面と,そこに絵を描いて目のたのしみとするという役割もあったようです.タピスリーにかんするいくつかの用語を解説したうえで,じっさいの作品3点を,多くの映像で示しつつ,描かれている内容や成立事情やそこから読みとれる意味などを多岐にわたって話されましたが,どこもたいそうおもしろく拝聴しました.まずはじめに挙げられたのがアンジュー公ルイ一世のために制作された「黙示録の壁掛け」です.「全長103メートル×高さ約6メートル」という巨大なもので,ヨハネ黙示録の諸場面を描いています.かならずしもテクストに忠実に視覚化したわけでもないようですが,それにしても,よくこんなものを作ったと,あきれてしまうほどです.次は「バイユーのタピスリー」.11世紀なかばのノルマン・コンクエストを記念するために創られたのでしょうか,これはじつはタピスリーではなく刺繍なのですが,高さ50センチメートルの布が68メートルにわたってつづくという,やはり長大な作品です.戦闘の準備や航海などのさまざまな場面のほか,ハレー彗星を見上げているひとびとが描かれていたりもして,歴史資料としての意味もあるかとおもわれます.最後はクリュニー美術館蔵の「一角獣と貴婦人」.謎めいたところの多い作で,「五感とその統御」という意味づけもあれば,宮廷風恋愛の相を見るという解釈,あるいは結婚の贈り物とする見解など,いろいろにいわれています.が,篠田氏はひとつの意味に限定するのではなく,多様な見方があっていいのではないか,と,説かれていたようにおもいました(このあたり,わたくしのおぼろげな記憶なのでたしかではありません).ともあれ,タピスリーという,単純なカテゴリーにはおさまりきれない <もの> についての知見を得ることができたのは,さいわいでした.