さりげないところに<感動>がある

「感動的」などといったら,陳腐な表現といわれるかもしれませんけど,そういうほかないのが遠藤淑子氏の新刊『ヨシツネ』(幻冬舎,2016年 1月)です.掲載紙がちがうためか,巻頭に置かれている「ヨシツネ」はかなりコミカルでメタマンガ的な要素がつよく,なんともヘンな作品にしあがっていますが,他の5編には読むひとのこころに染み入ってくるおもむきがあります.「さがし人」は少女のころの思い出話にはじまって,世を拗ねたひとに対し,「君にもいろいろ事情があるんだろうし/帰りたくない理由もたくさんあるんだろうけど/でもね/君をさがしてる人がいるんだよ/ずっとさがしているんだよ」と語っています.「イカロスの墜落」はわずか4ページの作品ながら,そしてとくにストーリーというほどのものもないのですが,不思議な印象をあたえてくれます.本書の刊行を期に,遠藤氏のマンガに接するひとが増えてくれることを願っています.