七宝といっても一様ではない

東京都庭園美術館で ≪並河靖之 七宝 明治七宝の誘惑−透明な黒の感性≫ を見ました.ここ数年,明治期の工芸への関心が高まっていて,並河靖之の作品も取りあげられることが多いんですが,今回の「没後90年を記念する」展示は「初期から晩年までの作品を一堂に会する初めての回顧展」なのだそうです.明治はじめのころの七宝というのは,焼成の技法や釉薬が未発達だったためでしょうか,華やかさに欠けて泥臭いという印象を受けてしまうのですけど,やがて,あざやかな色彩をもつものが出てきます.鳳凰や龍,菊や藤などの植物文様,といった日本画の伝統的な画題をあしらった作が数多く作られ,その緻密さには圧倒されます.もっとも,装飾過剰ではないか,とおもわれるようなところもあるのですが,明治後期になると作風に変化があらわれ,余白とかアシンメトリーといった要素をとりいれたかのような作を見ることができます.七宝といっても,さまざまなものがあるということを知らされた,そして眼福にあずかることのできた企画展でした.