2012-01-01から1年間の記事一覧

文庫版『怖い絵』第二弾

中野京子『怖い絵 死と乙女篇』(角川文庫,平成二十四年八月)を読みました.親本とは配列にちがいがあり,書きおろし2編が加えられています.カバーに大きく描かれているレーピンの「皇女ソフィア」の顔がこわいですね.これを冒頭においてソフィアとその…

美術館をハシゴ

国立西洋美術館の ≪ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年≫ と東京都美術館の ≪マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝≫ とを見てきました.どちらにもフェルメールの魅力的な少女が<メダマ>として展示されていて,たいへん…

ハチャメチャと深刻の混淆

TONO『カルバニア物語 14』(徳間書店,2012年 9月)を読みました.短編2編と,6回にわたって書き継がれた中編「クロスチアの友人」の3作をおさめています.「クロスチアの友人」がなかなかの力作です.が,ストーリーはかなりわかりにくく,12巻で登場し…

懇切な案内書

中野京子『名画と読む イエス・キリストの物語』(大和書房,二〇一二年九月)読了.「あとがき」に「本書は宗教の本ではありません。[中略]ではいったいなぜイエスの生涯を物語るのか、と問われれば、それは絵画鑑賞のためです(p. 210)」とあります.西…

入門書? 研究書?

橋本 治『浄瑠璃を読もう』(新潮社,2012年 7月)を読みました.「あとがき」に なんでまた義太夫節の浄瑠璃かと言えば、近代になって成立する小説の先祖が江戸時代の人形浄瑠璃劇だと私が思っていて、今でも好きな人は好きではあるけれど、多くの人にとっ…

悲惨な結末?

TONO『コーラル 手のひらの海 3』(眠れぬ夜の奇妙な話コミックス,朝日新聞社/朝日新聞出版,2012年 8月)読了.「オーシャン・ドリーム・ファンタジー」と銘打っており,すっとぼけたコミカルなところがあるいっぽう,残酷な設定や描写もあります.今回初…

幽霊がいっぱい

『芸術新潮 8月号』の「特集 美女と幽霊」を読みました.というより,ながめたといったほうがいいでしょうか.いろいろな幽霊がいます.描表装を利用した「絵から飛び出す3D系」とか,生首をくわえる「日本のサロメたち」とか,「骨のあるみなさん」と題…

吾妻ひでお氏の前衛性

『よいこのための吾妻ひでお』(河出書房新社,2012年 7月)を読みました.監修のとり・みき氏は吾妻ひでお氏の画業を六期に分けて解説されています.世上では「不条理日記」にはじまる第三期の評価がたかいようですが,とり氏は「第一期・第二期をネグレク…

夏むきの(?)本

このところの暑さのせいでなにもする気がおきず,ブログの更新もとどこおってしまいました.本を手にとっても,読み通すだけの気力がつづかずに,とちゅうでなげうったり,あるいは何日もかけてやっと読み終えるといったていたらくです.これではいかんとお…

読みごたえたっぷり

黒田日出男『国宝神護寺三像とは何か』(角川選書 509,角川学芸出版/角川グループパブリッシング,平成二十四年六月)を読みました.「平重盛像」「源頼朝像」「藤原光能像」とされてきた「神護寺三像」をそれぞれ「足利尊氏像」「足利直義像」「足利義詮…

自然の猛威

杉並区立郷土博物館 分館で ≪発見された明治三陸津波の古写真 石黒敬七・敬章コレクションより≫ を見ました.明治29年に起きた三陸津波の被災状況をつたえる写真を展示しています.明治時代の写真師として有名な中島待乳の遺した写真台帳がもとになっている…

「これまで経験したことのないような大雨」

九州地方の大雨がすごいようですね.これを「これまで経験したことのないような大雨」と表現することが新聞で報じられていました.たしかにそのとおりの,わかりやすいいいかたですけど,まだるっこしいような気もします.「想定外の大雨」なんてどうでしょ…

山岸凉子はやはりすごい!

『日出処の天子 <完全版>』(全7巻,メディアファクトリー,2011年11月〜2012年 4月)読了.昨年11月以来,刊行されるごとに買ってはいたのですが,全巻そろってから読もうとおもってためていたのが,完結してみると今度はその分量におそれをなし,なかな…

水野英子健在!

水野英子(画)・青島広志(文)『オペラへご招待! 魅力の名作オペラ10選』(学研パブリッシング/学研マーケティング,2012年 7月)を読みました.タイトルおよびサブタイトルのとおり,著名なオペラ10作をとりあげて紹介・解説しています.各章とも<作品…

「歴史感」とは

本村凌二『古代ローマとの対話 「歴史感」のすすめ』(岩波現代文庫,岩波書店,2012年 6月)を読みました.「あちらこちらの新聞・雑誌に執筆したものを、加筆修正しながら一冊にまとめた」「岩波現代文庫のために編集されたオリジナル版」だそうです.前二…

芳年の魅力満載

『別冊太陽 日本のこころ 196 月岡芳年 幕末・明治を生きた奇才浮世絵師』(平凡社,2012年 6月)を読みました.昨年が国芳の没後150年にあたっており,ことしは芳年の没後120年だそうです.そんなわけで,このふたりの業績がいろいろなかたちでおおやけにさ…

「装身具」という概念だけにはおさまらないような・・・

事情があってカキコミがおくれてしまいましたが,昨13日にLIXILギャラリーで ≪聖なる銀 アジアの装身具≫ を見ました.中国からトルコまで,アジアを5つの地域にわけ,銀の装身具270点ほどを展示しています.すべてが銀製であるのではなく,洋白という…

「だらだら」ではない『だらだら日和』

TONO『だらだら日和』(眠れぬ夜の奇妙な話コミックス,朝日新聞社/朝日新聞出版,2012年 6月)を読みました.作中に「とりとめもなくだらだらと/日常や思い出をつづります」(p. 51)とあるのですが,このことわりがきやタイトルに反して,だらだらではな…

英泉の世界にひたる

千葉市美術館で ≪浮世絵師 溪齋英泉≫ を見てきました.会期中に一部展示替えがあるそうですが,300点あまりを一挙に見ることができたのは,眼福というほかありません.芝居絵や風景画,花鳥画や風俗画などもありましたけど,英泉といえばやはり,爛熟的・頽…

てごろなハンドブックとしてオススメ

新人物往来社(編)『巨匠たちが描いた 神と天使と悪魔』(新人物往来社,二〇一二年五月)を読みました.<第1章 ギリシャ・ローマ神話の神々/第2章 キリスト教世界の天使と悪魔たち/第3章 北欧神話の神々と怪物たち>の三部構成になっています.が,…

興味本位の俗っぽい出版物という気もしますが・・・

池上英洋(監修)『別冊宝島1872号 残酷絵で見る 暗黒の西洋史』(宝島社,2012年 6月)を読みました.<第1章 殺害と死/第2章 拷問と処刑/第3章 殉教者たち/第4章 狙われる女性の性/第5章 日常に潜む残酷さ>にわけ,さらにこまかい項目(たとえば…

絵を「読む」ことについて語っている本2冊

中村 麗『これだけは知っておきたい「名画の常識」』(小学館101ビジュアル新書,小学館,二〇一二年四月)と木村泰司『おしゃべりな名画』(ベスト新書 371,KKベストセラーズ,二〇一二年三月)を読みました.どちらも西洋美術作品を具体的に取りあげてい…

蒐集することの執念

東京国立博物館で ≪ボストン美術館 日本美術の至宝≫ を見ました.すごいですね.よくもこれほど集めたものです.絵画だけでなく,仏像や刀剣や衣装があったのにも,おどろきました.鑑識眼のたかさには,まったく驚嘆させられます.本展のチラシやポスターに…

怪物がいっぱい

新人物往来社(編)『名画に出てくる 幻想世界の住人たち』(新人物往来社,二〇一二年四月)を読みました.「第1章 ギリシャ神話の住人たち」と「第2章 さまざまな神話・伝説の住人たち」にわけて,ゴルゴーンとかニンフとかドラゴンといった<怪物>をと…

「生活」へ注ぐまなざしのあたたかさ

森 薫『乙嫁語り 4』(エンターブレイン/角川グループパブリッシング,2012年 5月)を読みました.冒頭の「第十八話」で部族間の対立やかけひきといった政治的状況が語られ,「第十九話」以後は旅をつづけるイギリス人・スミス氏のはなしになるかとおもいき…

3.11の影響

流水りんこ『インド夫婦茶碗 17』(ぶんか社,2012年 5月)を読みました.内容は従来のこのシリーズと変わらず,著者の家族や学校やPTAのことやらで,それらはそれなりにおもしろいんですが,今回わたくしが興味をもって読んだのは「夫婦茶碗110杯目」で…

日本のかたすみでの信仰のかたち

京橋のLIXILギャラリー(旧・INAXギャラリー)で ≪鉄川与助の教会建築 五島列島を訪ねて≫ を見ました.「鉄川与助」というのははじめて聞く名だとおもったのですが,念のため『別冊 太陽 日本のこころ 119 日本の教会をたずねて』(平凡社,2002年1…

銅像への興味への興味

金子治夫『日本の銅像』(淡交社,2012年 4月)という本を図書館から借りだして読みました.というより,眺めたといったほうがいいでしょうか.金子氏は昭和16年(1941)生まれの写真家で,「はじめ漠然と風景の写真を撮って」いたのを,20年あまり前に「好…

土地の利用法

「福島第一周辺の「無人地帯」国有化、復興相打診」という記事が読売新聞によって配信されているようです. http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20120502-OYT1T00160.htm ところで,「故郷」に対するひとびとのおもいには根強いものがあ…

ヤマザキマリ氏のエッセイ2冊

『ヤマザキマリのリスボン日記 テルマエは一日にして成らず』(フリースタイル,2012年 4月)と『テルマエ戦記』(エンターブレイン/角川グループパブリッシング,2012年 5月)を読みました.ブログに掲載されたものですが,著者の日常生活あれこれを語って…